今週の投資:弱い米雇用統計で利上げ観測が後退、日経平均は7万円が視野に
筆者:オペラシンフォニー(元・大手証券トップセールス/CFP)
米国の9月雇用統計が市場予想を大きく下回り、追加利上げへの見方が一気に後退。日本株は高値圏、欧州はインフレ再加速、中国は景気指標が持ち直しと、日米欧アジアで動きが相次ぎました。直近1週間の経済・投資ニュースをまとめます。
先週(9月28日〜10月4日)は、米国の雇用統計の弱さが相場の空気を大きく変えた1週間でした。働く人の増え方が急ブレーキしたことで、「利上げ(金利を上げること)はもうしばらくないのでは」との見方が一気に広がり、ハイテク株が買われました。日本では、物価の高止まりと長い期間の金利の上昇が意識されつつ、株価は高い水準を保っています。順番に見ていきます。
新技術・特許
先週、投資家の関心を最も集めたのは、引き続き「AIを動かすための設備(データセンター)」まわりの動きです。AIの計算には大量のコンピューターと電力が必要で、そこに関わる企業にお金が集まりやすい状況が続いています。この流れは、後述する米国のIPO(新規上場)にもはっきり表れました。
- (日本)量子コンピューターの産業化に向けた取り組みの進み具合を経済産業省が公表(9月30日)。 次世代の超高速計算機「量子コンピューター」を実際のビジネスに使えるようにするための国の事業について、その成果の進捗がまとめられました。すぐに企業の業績を動かす話ではありませんが、国がこの分野を後押しし続けていることを示す資料です。量子コンピュータの産業化に向けた開発の加速及び環境整備事業におけるアウトカムの進捗状況(経済産業省)
- (日本)大学・研究機関からの新しい技術発表が相次ぎました。 次世代の通信やセンサー、太陽電池向けの新素材など、研究段階の発表が複数公開されています。いずれもまだ実用化前の段階で、具体的な製品化の時期や金額は確認できていません。興味のある方は一次情報を確認してみてください。科学技術・研究開発・特許のプレスリリース一覧(共同通信PRワイヤー)
上場まわり(IPO・上場廃止)
先週は米国で、AIブームを象徴するような新規上場(IPO=会社が初めて株式市場に株を売り出すこと)がありました。
- (米国)AI向けの設備を手がけるアクセラベーション(Accelevation、銘柄コード ACCV)がナスダックに上場(9月29日に価格決定、30日に取引開始)。 データセンター向けの機器やサービスを提供する会社で、合計で約5億4,000万ドル(日本円でおよそ800億円規模)を調達しました。ただし、売り出し価格は1株18ドルと、当初想定していた20〜24ドルの範囲を下回りました。AIへの期待は強い一方で、新規上場の値付けには慎重さも残っていることがうかがえます。AIインフラ企業アクセラベーション、米IPOで5億4,000万ドル調達(The Star) / Accelevation Prices $540 Million IPO At $18 Per Share(Pulse 2.0)
- (米国・韓国)韓国の火災安全AI企業ロゼAI(Roze AI、銘柄コード RZAI)がナスダックで直接上場(9月29日)。 IoTやセンサー、デジタル技術を組み合わせて火災のリスクを予測・監視する技術を手がける会社です。これは会社が新たにお金を集める通常のIPOではなく、既存の株主が持っている株をそのまま市場で売り出す「直接上場」という方式です。参照価格は1株8ドルで、これをもとにした企業価値は約9億3,300万ドルとされています。韓国の防災センシング企業ロゼAIがナスダック直接上場を確定(Renaissance Capital)
世界の経済
米国:雇用統計が急ブレーキ、利上げ観測が後退
10月2日に発表された9月の雇用統計(働く人がどれだけ増えたかを示す国の統計)が、市場予想を大きく下回りました。
- 働く人の増え方(非農業部門雇用者数)は2万9,000人増にとどまり、市場予想の8万5,000〜9万人増を大幅に下回りました。
- 失業率は4.2%と、前月の4.1%から小幅に悪化しました。
- 賃金(1時間あたりの平均賃金)は前年同月比で約3%の上昇でしたが、物価の上がり方に追いついておらず、生活実感としては厳しい状況が続いています。
この弱い数字を受けて、「利上げ(金利を上げること)はもうしばらくないだろう」との見方が急速に広がりました。市場が織り込む10月の利上げの可能性は、1週間前の64%から16%まで低下したと伝えられています。金利が上がりにくいとの見方は、将来の成長が期待されるハイテク株にとって追い風になりやすく、この日の株式市場は上昇しました。
- ナスダック総合指数:+1.19%(27,190.86)。取引時間中に過去最高値をつける場面もありました。
- S&P500種株価指数:+0.73%(7,722.72)
- ダウ工業株30種平均:+0.49%(51,176.96)
半導体大手エヌビディアの株価は取引時間中に237.87ドルの最高値をつけました。一方で、長い期間お金を貸すときの金利の目安となる米10年国債の利回りは5.28%前後と高い水準にあり、金利の高さ自体は引き続き相場の重しになり得ます。米株式市場、9月雇用統計受け上昇(Yahoo Finance)
日本:株価は高値圏、物価の高止まりが続く
- 日経平均株価は10月2日の終値が6万8,309円(前日比647円安)でした。この日は利益を確定する売りと、米国の金利上昇が重しになりました。ただ全体としては高い水準を保っており、市場関係者の間では来週にかけて7万円が視野に入るとの見方も出ています。
- 日銀が10月1日に発表した企業短期経済観測調査(短観=企業に景気の感じ方を聞く調査)では、大企業の製造業の景況感が前回のプラス22からプラス24へ改善しました。一方、大企業の非製造業はプラス37からプラス35へわずかに悪化しました。
- 10月2日に発表された9月の東京都区部の消費者物価指数(物価の上がり下がりを示す指標)は、価格が動きやすい生鮮食品を除いたベースで前年同月比2.7%上昇、さらにエネルギーも除いたベースでは3.0%上昇と、物価の上昇圧力が根強いことが示されました。
来週の日経平均見通し・日銀短観・東京都区部CPI(外為どっとコム マネ育チャンネル)
欧州:物価が再加速、インフレへの警戒が強まる
- 10月2日に発表されたユーロ圏の9月の消費者物価指数(物価の上がり下がりを示す指標。速報値)は、前年同月比で3.8%上昇となりました。8月の3.2%から加速し、市場予想の3.6%も上回っています。2023年以来の高い伸びで、物価が再び上がりやすくなっていることを示しました。
- これに先立つ9月29日には、欧州中央銀行(ECB=ユーロ圏の金融政策を担う中央銀行)のラガルド総裁や、ユーロ圏の主要4カ国が、インフレ(物価上昇)の先行きに警戒を示したと伝えられました。
- こうしたなか、フランスの10年国債の利回りは4.9%近辺まで上がり、ドイツとの金利差が広がっています。背景には財政や政治をめぐる市場の警戒感があるとされます。金利が上がりやすい地合いは、世界の株式や為替にも影響しうる点として意識されています。
ユーロ圏の9月インフレ率が3.8%に加速、2023年以来の高水準(Trading Economics) / ラガルド総裁とユーロ圏主要4カ国、インフレ見通しに警戒(Bloomberg) / フランス国債利回りなど(外為どっとコム マネ育チャンネル)
アジア:中国の景気指標が持ち直し
- 10月1日に発表された中国の9月の製造業PMI(企業に景気の良し悪しを聞いた指数。50を上回ると「拡大」、下回ると「縮小」を示します)は50.1となり、8月の49.8から改善しました。2カ月ぶりに「拡大」の領域に戻っています。
- 製造業以外の動きを示す非製造業PMIも50.2(8月は49.0)と持ち直し、建設業も今年初めて拡大に転じました。全体として、景気が底堅さを取り戻しつつあることを示す内容でした。
- 背景には、政府が打ち出した8,000億元(約1,190億ドル)規模の新たな政策資金など、景気を下支えする取り組みがあるとされます。中国の景気は、日本やアジアの輸出企業の業績にも関わるため、投資の観点でも注目されています。
中国の9月PMI、景気刺激策で改善(China Daily) / 中国の製造業活動が9月に持ち直し、刺激策が下支え(Business Standard)
株価が高い時期ほど、下がったときにどう動くかを先に決めておくと慌てずに済みます。積立を続けた場合・休んだ場合・売った場合の差は、狼狽売りの値段で数字にできます。
政治の動き
日本:臨時国会が10月5日召集で調整、食料品の消費税減税が焦点
高市首相のもと、臨時国会が10月5日の召集で調整されていることが伝えられました。焦点となるのは、食料品にかかる消費税の減税や、国会議員の定数(人数)の削減などです。政府が提出する法案は21本にのぼるとされています。食料品の消費税減税は、実現すれば家計や食品・小売関連の企業に関わるテーマであり、投資の観点でも注目されています(なお、国会での審議結果はこれから決まる段階で、ここでは決まっている召集・論点の範囲にとどめます)。臨時国会で結果、高市首相が強調 消費税減税など(日本経済新聞) / 臨時国会、10月5日召集 消費税・定数減が焦点(時事ドットコム)
米国:雇用の弱さを受け「年内の追加利上げは見込まない」との発言
前述の弱い9月雇用統計を受け、ホワイトハウスの経済責任者が、年内の追加利上げは見込んでいないとの考えを示しました。金融政策(金利をどうするか)をめぐる綱引きは、当面、株式・為替・債券の相場を動かす大きな材料であり続けそうです。米株式市場、9月雇用統計受け上昇(Yahoo Finance)
欧州・アジア:財政リスクと景気下支え策
- (欧州) フランスでは財政・政治をめぐる不透明感が続き、国債の利回りが高止まりしています。欧州の財政をめぐるリスクは、ユーロや欧州株を通じて世界の相場にも波及しうる論点として意識されています。フランス国債利回りなど(外為どっとコム マネ育チャンネル)
- (アジア) 中国は景気の弱さに対し、政策資金の投入など景気を下支えする姿勢を続けています。前述の9月PMIの改善は、こうした政策の効果が一部表れたものと受け止められています。政府の政策スタンスは、中国関連ビジネスを持つ企業にとって引き続き重要な材料です。中国の9月PMI、景気刺激策で改善(China Daily)
※本記事は公開情報・各種出典に基づき事実を整理したものです。相場や制度は変動するため、最新情報もあわせてご確認ください。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。