提案をまず断るお客様が、資産を増やしていた ―― 証券営業15年で見たこと
執筆:オペラシンフォニー
証券会社の営業のおすすめは、鵜呑みにしてよいのか。元大手証券の営業15年の筆者が、推奨銘柄が変わる流れ、投資信託をすすめられたときに見る手数料と置き換え、売りの提案が来ない理由、資産を増やしたお客様の共通点を書きます。
※この記事にはPR(アフィリエイト広告)を含みます。
証券会社の営業の人が「いまはこの銘柄がおすすめです」と言ってきたとき、どこまで信じてよいのか。迷った経験のある方は多いと思います。
応接室で、こちらが用意した資料を、お客様が黙って最後まで読んでいる。顔を上げて、ひと言。
「で、これを売るときの基準は、どう考えているの?」
こちらの準備が足りなければ、そこで空気が変わります。私は大手証券の営業を15年やりましたが、資産をきちんと増やしていたお客様には、こういう人が多かったのです。意外にも、共通していたのは「こちらの提案を、まず断る」ことでした。
ここに書くのは、私が働いていた頃の、私が見た範囲の話です。会社や時期によって違いはありますし、今は変わっている部分もあると思います。お客様が特定されないよう、場面は複数の記憶を組み合わせて、読みやすく整えています。
証券会社の推奨銘柄は、いつの間にか入れ替わる
当時、支店や会社が推奨する銘柄がありました。市場が盛り上がっているときは、その推奨を支店長から受けて、そのまま営業がお客様に勧めていく流れになりがちでした。
最初に乗ったお客様は、うまくいくことが多いです。問題は、盛り上がりを見て後から乗ってくるお客様です。高値を買う形になるケースがありました。
そのあと株価が下がってくると、売る提案がなかなかできません。売る提案は、正直なところ怖いのです。迷っているうちに会社の推奨銘柄は別のものに変わり、支店も会社も、その銘柄を勧めなくなっていきます。買ったお客様の手元にだけ、含み損が残ります。
「推奨されている」ことと「いま買ってよい」ことは、別のことです。
相場がよいときほど、分析は甘くなる
もうひとつ、振り返って思うことがあります。
マーケットがよいと、お客様の買いたい気持ちが強くなり、こちらの提案もすっと通ります。そういうときほど、銘柄の分析が雑になりやすいのです。会社の推奨だから勧める、という流れに寄っていきます。
逆に、相場が悪くて、お客様もあまり買う気がないと感じたときは、こちらもしっかり分析して提案しました。そうして買っていただいた株式、投資信託、債券は、結果として損をしにくかったように思います。
買いやすい時期ほど、買う理由を確かめる。これは営業の側にも、お客様の側にも言えることです。
月末になると、起きがちだったこと
証券会社も、収益を上げて続けていく会社です。目標の数字は、支店、課、個人のそれぞれに下りてきます。
月末が近づくと、その数字が頭をよぎります。すると、少し利益が出ている銘柄の乗り換えを考えてしまう気持ちが、どこかで働くことがありました。そのまま持っていれば大きく伸びたかもしれない利益を、お客様が受け取れなかった場面も、何度かあったと思います。
富裕層向けの部署に移ってからは、そこまで強く感じることは少なくなりました。それでも、収益を上げる必要がある構造は同じです。たとえば信用取引の空売りは、リスク管理に手間がかかるため、会社として積極的ではありませんでした。すると、相場が下がっている局面でも、買いの提案が中心になります。現金を多く持っているお客様には、上席から提案を促されることもありました。
なお、国も手を打っています。金融庁は2017年3月に「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、2024年9月に改訂しました(金融庁)。金融機関が顧客の利益を第一に考えるよう求める流れは続いています。今がどうなっているかは、私には分かりません。
含み損は、早く決めたお客様ほど取り戻せていた
含み損になったときの動き方でも、結果が分かれました。
早めに決断して売ったお客様は、その後さらに下がったところで買い直して、取り戻せることがあります。一方で、下がって下がって、もう耐えられないというところで売ったお客様は、そこが底だった、ということがよくありました。
「総悲観は買い」という相場の格言は、本当によく言ったものだと思います。もう耐えられない、という感覚そのものが、底に近いサインだったのかもしれません。
もし半分に下がったら、元に戻すには倍の上昇が必要です。その痛みの大きさは、狼狽売りの値段で自分の数字に置き換えて見られます。
資産を増やしていたお客様の共通点
では、きちんと資産を増やしていたお客様は、どんな人だったのか。私が見た共通点は、次のとおりです。
- お金に意外と無頓着で、相場の上げ下げに一喜一憂しない
- 企業や市場について、自分なりのしっかりした考えがある
- 営業員の提案を鵜呑みにしない
- デイトレードで儲けている人とは、まるで逆の雰囲気だった
買う銘柄の傾向もありました。全体の相場が盛り上がっているとき、値動きの大きい小型株には行かず、時価総額が大きく、市場シェアも高い王道の大型銘柄を買うことが多かったのです。指数の動きに連動しやすい銘柄です。指数の集中の話は、インデックス投資は集中投資だったでも書いています。
そして、いちばん印象に残っているのは、こちらの提案をまず断ってくるお客様でした。しっかりした考えがあるので、こちらの準備が足りないと見抜かれます。真剣勝負の緊張感がありました。それは結果的に、こちらの成長にもなりましたし、そういうお客様ほど資産を増やしていました。
お客様からよく聞かれた質問も、どれだけ儲かるかより、「本当に大丈夫か」でした。リターンより先に、リスクを気にしているのです。
指数に連動する王道の銘柄に長く投資する、という考え方は、定番の本でも読めます。
▶ 敗者のゲーム[原著第8版](Amazon)(PR)
営業の利益と、お客様の利益
ひとつ、ずっと違和感があったことを書いておきます。
社内の会話で、お客様の資産のことを、つい自分たちの持ち物のように話してしまう空気がありました。「何を買った」「何を売った」という言い方です。本来は「何を買っていただいた」「何を売っていただいた」であるはずです。ここは、働いている間ずっと、引っかかっていたところです。
営業員は口では「お客様のため」と言います。でも、本質的には自分のため、自分の家族のために働いています。それ自体は悪いことではありません。大事なのは、お客様の利益と営業員の利益が重なる形になっているか、です。重なっていないと感じたら、提案をそのまま受け取らないことです。
富裕層向けの運用提案は、こう組んでいた
私が担当していたのは、富裕層のお客様でした。そこでの基本の運用提案は、おおむね次のような形です。当時の私の担当の範囲の話で、誰にでも合う形ではありません。ただ、一般の方でも、考え方は参考になると思います。
- 外貨建ての債券を土台にして、5年などの期間を決める
- 運用する資産の半分から7割くらいを債券にして、利回りどおりに進めば、5年後に元本が確保できるように組む
- 残りの資産で、株式、コモディティ、ヘッジファンドなどのリスク資産に投資する
見直しは月に1回入れて、配分の入れ替えは3か月に1回もあれば多いほうでした。
相場しだいの動き方も決めておきます。大きく利益が出たときは、元本を早めに確保します。逆に相場が悪いときは、追加の資金を検討するか、いったん現金を多めにして、タイミングを待ちます。相場が悪いときは債券が上がりやすいので、土台がしっかりしている、という考え方です。
ただし、この形にも弱点があります。株も債券も同時に下がる「トリプル安」や、金融システム全体のリスクは、いつも頭に入れておく必要があります。外貨建ての債券には、為替の変動や、発行した会社や国の信用リスクもあります。「元本が確保できる」のは、満期まで持ち、利回りどおりに進んだ場合の話です。
債券と株の配分によって、5年後、10年後の資産がどう変わるかは、為替の動きも入れて、債券と株の組み合わせシミュレーションで試せます。かなり悪いとき、ふつう、かなり良いときの3通りで比べられます。
もうひとつ、正直に書いておきます。ポートフォリオを提案することには、定期的に見直す機会をつくり、忙しい富裕層のお客様と会う口実にする、という側面もありました。見直しがあること自体はお客様のためにもなります。ただ、提案の裏に営業の都合もある、と知っておくと、聞き方が変わると思います。
投資信託をすすめられたとき、見るところ
いまの時代は、個別の株式よりも、投資信託や外国株式をすすめられることが多いと感じます。私の印象ですが、そうした商品は手数料が高めなものが多いのです。
最近は、銀行の窓口でも投資信託がすすめられている場面を見かけます。私が見たのは一場面だけですが、すすめる側がきちんと説明できているか、受ける側が中身を理解できているか、その両方が気になりました。理解できていない商品は、買わない、あるいはその場で決めない、というのも大事な選択です。
投資信託をすすめられたときは、次の点を見てみてください。
- 信託報酬(持っているあいだ毎年かかる管理の費用)はいくらか
- 買うとき、売るときに手数料はかかるか
- 乗り換えをすすめられたなら、いま持っているものと似たような投資信託ではないか
- その投資信託は、ETFなどのインデックスに置き換えられないか
- 同じ分野のインデックスに、成績で勝っているか
- 運用会社の実績はどうか
- 投資信託でしか買えないものか
預金、債券、株の利回りとリスクの目安は、利回りとリスクの一覧で並べて見られます。すすめられた商品の利回りが、この目安と比べて高いのか低いのか、確かめる物差しになります。
もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。投資信託は長期で持つ前提の商品なので、相場が下がっても、営業員から「売りましょう」と言われないことがあります。当時は、買ってから6か月以内の反対売買(売り戻し)の提案は控える、乗り換えは1か月以内は控える、といった社内のルールがありました。
こうしたルールは、お客様が短期の売買で振り回されないよう守る面があります。一方で、逆の効果になるケースもあるのです。「売りの提案が来ない」ことを、「持ち続けて大丈夫」というサインだと思い込むと危ないのです。実はルール上、売りの提案ができないだけ、ということもあります。
ただし、いまのルールは私には分かりません。会社や時期でも違います。商品を買う前に、売るときの条件と、提案が出る時期を、営業員に直接聞いておくのが確実です。
インデックスで置き換えられるかを考えるときの材料として、インデックス投資の定番書もあります。
▶ ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版>(Amazon)(PR)
営業の提案を受けるとき、確かめたいこと
営業の側からみて、こう聞かれると準備が要る、と感じる質問があります。
- なぜ、いまこの銘柄なのか。買う理由と同じ重さで、売る基準も聞く
- 自分が使うお金の時期と、取れるリスクを、先に伝えておく
- 会社の推奨が変わったとき、いま持っている自分の銘柄をどうするか、先に決めておく
- 投資信託なら、手数料と、ETFなどに置き換えられないかを聞く。売りの提案がない理由も確かめる
準備のいる質問をされた営業員は、真剣に考えます。それが、よい提案につながります。
営業を通さずに、自分の状況を整理したいときは、FPへの無料相談という方法もあります。相談先ごとに収益の仕組みは違うので、何から報酬を得ているかも聞いてみてください。
▶ おかねと暮らしの相談窓口で、FPに無料で相談する(PR)
私自身が気をつけていること
私自身が自分のお金で気をつけていることも、書いておきます。誰にでも合う形とは限りませんし、個別の銘柄は元本を割り込む可能性があります。
- 長期のライフプランと、中期・短期のライフプランを分けて考える
- 近いうちに必要なお金は現金で持つ
- リスクを取れるお金は個別銘柄に、NISAなども使って税金面も整える
- 1か月、3か月など、定期的に見直す
- 保有している銘柄は、会社のプレスリリースを読む癖をつける
- リスクを取れる資産と取れない資産、必要になる時期を、はっきり把握する
- 入口を決めたら、出口もあわせて考える
必要な時期から逆算するときは、ライフイベント表が使えます。順番の考え方は、お金の地図にまとめています。
営業の提案を聞く前に、自分の考えを持っておきたい方は、オンラインのマネーセミナーや無料相談で、長期・積立・分散の基本を確かめておく方法もあります(スマホ可)。
▶ マネイロで、お金の基本をオンラインで学ぶ・相談する(PR)
営業の現場を舞台にした物語は、連載「関ヶ原インベスターズ」のS3 第1〜4話「売るものを小さくすると、通る」や、第9〜12話「営業は、殺し文句ではなく、細部で落ちる」でお読みいただけます。
まとめ
営業員の提案は、考える材料のひとつです。そのまま従う答えではありません。私が見た、資産を増やしていたお客様は、提案をまず断り、リターンより先にリスクを聞き、相場に一喜一憂しない人でした。
よくある質問
Q. 証券会社の営業のおすすめ銘柄は信用できますか?
A. 参考にはなりますが、そのまま信じる前に、なぜいまなのか、売る基準は何かを確かめるのが大切です。会社の推奨は入れ替わることがあり、買ったあとの管理はお客様自身に残ります。
Q. 証券会社の営業にすすめられた投資信託は、そのまま買ってよいですか?
A. 買う前に、信託報酬と売買の手数料、ETFなどのインデックスに置き換えられないか、同じ分野のインデックスに成績で勝っているかを見てください。乗り換えをすすめられたなら、いま持っているものと似ていないかも確かめましょう。
Q. 相場が下がっているのに、営業から売りの提案が来ないのはなぜですか?
A. 投資信託は長期保有が前提なので、売りの提案をしないこともあります。私の働いていた頃は、買ってから6か月以内の売り戻しの提案や、1か月以内の乗り換えの提案を控える社内ルールもありました。いまのルールは分かりませんので、売るときの条件は直接聞いておくと安心です。
Q. 月末になると営業が乗り換えを勧めてくるのは本当ですか?
A. 私が働いていた頃は、収益の数字が支店や個人に下りてくるため、月末に乗り換えを考えがちな圧力はありました。会社や時期によって違いますし、今は変わっているかもしれません。乗り換えを勧められたら、手数料と、持ち続けた場合との違いを聞くのがおすすめです。
Q. 含み損のとき、売るタイミングはいつがよいですか?
A. 正解はありません。私が見た範囲では、早めに決断したお客様は買い直して取り戻せることがあり、耐えきれなくなってから売ったお客様は、そこが底だったことがよくありました。あらかじめ、どこまで下がったらどうするかを、買う前に決めておくことをおすすめします。
出典
この記事は、筆者の15年の営業経験に基づく個人の見方で、特定の会社や個人を指すものではありません。一般的な情報の提供を目的としたもので、特定の銘柄や商品の売買をすすめるものではありません。これは投資助言ではありません。最終的な投資判断はご自身でお願いします。