売るものを小さくすると、通る
執筆:オペラシンフォニー
半日で終わった関ヶ原。その半日を作るのに、黒田長政は半年、歩いている。断られ、また通い、一件ずつ落としていく。そこには、営業の入口の基本が全部つまっている。
関ヶ原は、半日で終わった。その半日を作るのに、黒田長政という男が、半年、歩いている。
断られ、また通い、一件ずつ味方に変えていく。派手な殺し文句はどこにもない。あるのは、営業の地味な設計だけだ。
① 売るものを小さくすると、通る
長政は、福島正則に三度断られ、四度目にようやく通す。頼んだのは「東につけ」でも「西を討て」でもない。「明日の評定で、いちばん先に口を開いてくれ」――順番だけだ。
全部を頼めば、相手は全部を断るしかない。一つに削れば、断る理由のほうが見つけにくい。しかも、いちばん恩の深い者が先に頷けば、あとの者は考えるのをやめ、もう決まった話として乗るだけになる。
営業でも交渉でも、最初の一歩はできるだけ小さくする。大きな決断を迫るより、断りようのない小さなイエスを一つもらう。そこから、話は動きだす。
② その場で銭にならない一夜に、あとから値がつく
八年前、長政の家臣が福島の酒席で無理を通し、名槍を持ち帰った。長政は、命令違反だと叱った。だが八年後、その一夜があったからこそ、長政は福島の三度目の座に通された。
一度の取引で入る額ではなく、その相手と何年つながっていられるか。いまの言葉でいえばLTVだ。こういうものは帳簿に載らない。載らないから、ほとんどの人は積まない。積んだ者だけが、十年後に門をくぐる。
目先の売上にならない関係を、寝かせておけるか。面白いことに、あとで効く一手ほど、そのときは行儀の悪いやり方で作られていることが多い。
③ 何を言うかより、誰が持っていくか
門前払いされた家に、格上の紹介を借りると、同じ言葉があっさり通る。相手が変わったのではない。届け方が変わっただけだ。人は、何を言われたかより先に、誰が来たかを読む。
だから札には順がある。下から出す。上は残す。格は一度上げると、下げられない。はじめから最上の札を出した相手には、次に出すものがなくなる。上の札がいつも出し惜しみされるのは、けちだからではなく、二度目がないからだ。
そして、借りた格には必ず貸しがつく。紹介とは、相手の警戒を誰かに肩代わりしてもらうこと。肩代わりには相場があり、貸した側は必ず覚えている。
④ 返事が来ないのは、嫌われたのではない。忘れられただけだ
長政は四十三通出して、返ったのは十一。「嫌われた」と思った。だが、違った。「後回しにされているだけ」だ。断るにも手間がいる。一度こちらを頭に入れなければ、断りもできない。返事が来ないのは、まだ相手の順番の中に入っていないのだ。
だから、期日を切る。「何日までにご返答を」。切られた相手は、その日までに一度こちらを思い出す。それが目当てで、諾か否かはそのあとでいい。
否と返ってきたら、喜べ。否と言えるのは、こちらを覚えた相手だけだ。次に、会える。
まとめ
小さく頼む。関係を寝かせる。誰が届けるかを設計する。期日で思い出させる。
派手な一言ではなく、この地味な設計が、一件ずつ積み上がって、最後に半日の決着になる。営業の入口は、いつも、驚くほど小さい。
---
営業をやっていた頃、私は大きく頼んで、大きく断られてばかりだった。「売るものを小さくする」を早く知っていたら、と思う。断られた回数ではなく、断られてから何を変えたか。営業の芯は、たぶんそこにある。
---
会社員の収入まわりを整理したい方へ。