資産形成2026-10-10

銭は、誰も刷っていなかった ――ビットコインを、戦国の通貨から考える

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執筆:オペラシンフォニー(元大手証券の営業15年/CFP)

戦国日本は約600年、国が正式な貨幣を作らなかった。それでも経済は回った。価値はどこから生まれるのか――ビットコインを、戦国の銭から考える。

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戦国時代の日本には、国が発行した正式なお金がなかった。平安時代の中ごろに銅銭づくりが止まってから、およそ600年。それでも市場は立ち、兵は雇われ、城は建った。お金がないのに、経済は回っていた。なぜか。答えは「みんなが受け取ると信じているものが、お金になる」からだ。この一点を握ると、ビットコインという新しい"お金らしきもの"の正体が、ずっと見通しやすくなる。

銭は、誰も刷っていなかった

戦国期に流通していたのは、主に中国から輸入された銭だった。宋銭や明銭、なかでも永楽通宝がよく知られる。そこに、民間が勝手に鋳た私鋳銭(びた銭)も混じっていた。品質はばらばらで、人々は質の悪い銭を受け取らず選り分けた。これを撰銭という。良い銭は手元に残され、悪い銭ばかりが出回る――経済学でいうグレシャムの法則が、そのまま市場で起きていた。

やがて永楽通宝は、事実上の基準となる銭として通用するようになる。織田信長が旗印に永楽通宝を用いたのは象徴的だ。誰かが「これを基準にせよ」と命じたのではない。多くの人が使ううちに、標準になった。銀は東アジアの交易を支える国際通貨として働き、石見銀山は当時、世界有数の産出量を誇った。銭が足りない場面では手形や信用取引が発達し、米そのものが支払いに使われることもあった。

価値を保証する中央の存在はいない。それでも、人々の受け入れという合意が、金属の質という手がかりを通じて、お金を成り立たせていた。(出典:戦国時代のお金は誰が発行していたか(manabow)、戦国時代の貨幣とは(戦国ヒストリー))

ビットコインとの、似ているところと違うところ

ここまで読むと、思い当たる新しい"お金"があるはずだ。ビットコインである。

似ているところは多い。発行する中央銀行がいない。価値は、参加者がそれを受け取ると信じることから生まれる。多くの人が使うほど基準として強くなる、いわゆるネットワーク効果も働く。そして、誰でも新しい通貨を作れる点は、戦国の私鋳銭と、無数に生まれるアルトコインがよく重なる。玉石混交で、質を見分ける目が要るところまでそっくりだ。

ただし、同じではない。似ているのは技術ではなく、「価値は共同体の信認から生まれる」という一点にすぎない。戦国の銭には、発行量の上限も、誰にも書き換えられない取引の記録もなかった。ビットコインのその核は、歴史上のどの銭にもない新しさだ。だから「戦国の銭がそのままビットコインだ」と結ぶのは正しくない。重なるのは、お金の一番深いところ――何がそれを"お金"にするのか、という問いのほうだ。

「投機」か「ヘッジ」か――事実で見る

では、ビットコインは投機の対象なのか、それとも法定通貨の目減りに備えるヘッジなのか。ここは見方が割れる。断定はできないので、事実を並べる。

準備資産として国家が持つ動きは、確かに始まっている。米国は2025年3月の大統領令で戦略ビットコイン準備を創設し、2026年2月時点で約32万8千BTCを保有する。国家として世界最大の保有者だ。ただしこれは犯罪などで没収した分を保有しているもので、外貨準備を取り崩して買っているわけではない。企業が財務の準備として持つ例も増え、現物ETFを通じて機関投資家のお金が出入りするようにもなった。ただし2026年には、そのETFから資金が流れ出る局面もあった。持つ主体が広がることと、お金が入り続けることは、別の話だ。(出典:U.S. Strategic Bitcoin Reserve(Wikipedia))

一方で、危機の瞬間の値動きはヘッジらしくない。2026年の関税ショックでは、金が急騰する裏で、ビットコインは2025年10月の高値からおよそ47%下落した。ストレス時には株式との連動が強まり、安全資産ではなくリスク資産として売られる。24時間いつでも売れる流動性の高さと、デリバティブの強制決済の連鎖が、下げを増幅した。(出典:Bitcoin: Safe Haven or Risk Asset in 2026(Phemex))

ところが長い目で見ると、数年単位ではビットコインは金を上回るリターンを出してきた。ここから見えてくるのは、「金は今を守り、ビットコインは後を守る」という整理だ。急な危機では金、通貨の希薄化が続く局面ではビットコイン。競い合うというより、役割が違う。(出典:Gold vs. Bitcoin(Morningstar))

結論:時間軸で、答えは変わる

投機かヘッジか。この問いに一つの答えはない。時間軸で変わるからだ。短い時間で見ればリスク資産として振れ、長い時間で見れば通貨の目減りに備える資産という仮説が立つ。少なくとも、ひとくくりに「投機」と切って捨てるのは、事実に合わない。

戦国の人々が質を見分けながら銭を選んだように、私たちも「何を、どの時間軸で持つのか」を自分で選ぶしかない。関ヶ原で勝敗を分けたのが兵の数ではなく、誰が何を信じて動いたかだったように、通貨の価値もまた、信用という見えないものの上に立っている。ビットコインは、その古くて新しい問いを、現代に突きつけているだけなのかもしれない。

どこまで持ち、いつ降りるか。関ヶ原の勝者と敗者を分けた出口の違いは、儲け方より、「降り方」と「残し方」だにまとめた。

持つかどうかより、「全体のどこに置くか」

時間軸で答えが変わる資産は、単体で良し悪しを決めるより、資産全体の中でどこに置くかで考えるほうが実用的だ。一般的な考え方として、生活費や近いうちに使う予定のお金とは切り離し、大きく値下がりしても暮らしが揺らがない範囲にとどめる。そのうえで、預金・株式・債券・不動産など他の資産とあわせて、全体の比率を決める。

戦国の市場でも、銭だけでなく米や銀、手形が場面に応じて使い分けられていた。一つの"お金"だけに頼らないことは、昔からの知恵でもある。比率に正解はなく、年齢や収入、家族の状況で変わる。自分の場合はどうかを、一度は全体図で確かめておきたい。

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(本記事は特定の銘柄や暗号資産の売買を勧めるものではなく、投資助言でもありません。価格や制度は記載時点のもので、暗号資産は価格変動が大きく、元本を割り込む可能性があります。投資の判断はご自身の責任で行ってください。)

よくある質問

Q. ビットコインはインフレのヘッジになりますか?

A. 長期では通貨の希薄化に備える資産という見方がある一方、短期の危機ではリスク資産として下がる傾向があります(2026年時点)。時間軸で評価が変わるため、一概には言えません。

Q. なぜ危機のときに株と一緒に下がるのですか?

A. 24時間売買できる流動性の高さ、デリバティブの強制決済の連鎖、投資家がリスク資産として扱う運用モデルなどが理由とされています。

Q. なぜ国がビットコインを持つのですか?

A. 米国は2025年の大統領令で戦略準備を創設しました(2026年2月時点で約32.8万BTC)。ただし多くは没収資産の保有で、外貨準備を買い替えているわけではありません。

Q. ビットコインは資産のどれくらいまで持てばいいですか?

A. 一概には決められません。一般的には、生活費や近く使うお金とは切り離し、大きく値下がりしても暮らしが揺らがない範囲にとどめ、他の資産とあわせた全体の比率で考えます。適切な比率は年齢や収入、家族構成によって変わります。

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