「12歳までが勝負」は、本当だろうか ―― ゴールデンエイジの“窓”を考え直す
執筆:オペラシンフォニー
「ゴールデンエイジを逃すと手遅れ」は本当でしょうか。9〜12歳がうまくなりやすい時期なのは確かですが、海外のスポーツ科学では「窓が閉じる」という考え方が見直されています。焦らずに済む見方を整理します。
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「ゴールデンエイジを逃したら、もう伸びない」。少年サッカーの親なら、一度は耳にした言葉だと思います。高学年になってもリフティングが続かないわが子に、ひそかに焦った方もいるかもしれません。
この「9〜12歳ごろは技術を覚えやすい」という話自体は、間違いではありません。ただ、海外のスポーツ科学では、その先にある「時期を逃すと取り戻せない」という部分が、根拠の弱い考え方として見直されてきています。この記事では、その変化と、親としての受け止め方を整理します。
ゴールデンエイジとは?日本で言われていること
日本サッカー協会(JFA)のキッズ向けハンドブックでは、U-10〜U-12ごろを「動作の習得に最も適していると言われる」時期、その前のU-8ごろを、走る・跳ぶ・蹴るなど基本の動きを身につける「プレ・ゴールデンエイジ」と説明しています。同じ資料は、この年代はサッカー一筋である必要はなく、さまざまな経験が成長の糧になるとも書いています。
もともとの趣旨は「この時期にいろいろな動きを楽しく経験しよう」で、「逃したら終わり」とまでは言っていません。
「窓が閉じる」は本当?海外の研究で変わってきたこと
イギリスやカナダでは、年齢ごとに「鍛えやすい窓(ウィンドウ)」があるとする育成モデルが広く使われてきました。ところが2011年、イギリスの小児運動科学の研究者たちがこのモデルを検証し、次のように指摘しています。
- 決まった時期に特に伸びやすいという証拠は乏しい
- 窓を逃した子が最大の力に届かない、という主張には根拠がない
- 「窓」という言葉は閉じることを連想させるが、伸びる力は大人になっても残る
そのうえで、特定の時期だけでなく、子ども時代から思春期まで、すべての要素を少しずつ育てることをすすめています。
この考えを形にした「ユース・フィジカル・ディベロップメント・モデル」は、プレミアリーグのアカデミーや米国サッカー、英国の水泳連盟、さらにはメジャーリーグの球団でも取り入れられています。競技をまたいで「どの年齢でも伸びる。ただ、年齢ごとに重点が変わる」という見方が広がっているわけです。
大人になっても、脳は変わる
「神経は12歳でほぼ完成する」とよく言われますが、脳の発達はもう少し長い道のりです。10万人分を超えるMRIデータをまとめた2022年の研究では、脳の灰白質の量は6歳前後でピークを迎える一方、神経をつなぐ白質は29歳近くまで増え続けていました。
また、ジャグリング経験のない20代の大人に3つのボールのジャグリングを練習してもらった研究では、上達したあと、動きを見て処理する脳の部分が実際に大きくなっていました。練習をやめると少し戻りましたが、それでも始める前より多い状態でした。大人でも、練習すれば脳は応えてくれるのです。
もちろん、子どもの時期に覚えやすいことがあるのは事実です。「今しかない」と追い込むより、「今は覚えやすい時期だから、楽しく積もう」と受け止めたいところです。
今日からできること
- 「もう6年生なのに」と年齢で区切らない。昨日より何ができるようになったかを一緒に喜ぶ
- サッカーだけに絞らず、鬼ごっこ、木登り、ボール投げなど、いろいろな動きを遊びの中で
- 技術の上達に差が出ても、体の成長には個人差がある前提で見る。早い子、遅い子、それぞれの時間がある
- 「ゴールデンエイジだから」と練習量を急に増やさない。ケガや燃え尽きのほうが、取り返すのに時間がかかる
生まれ月の差が、今の身長でどのくらいの成長の差にあたるかは、成長の時計で確かめられます。
子どものサッカーを長い目で見る考え方は、子どものサッカーは、長期投資に似ているでもまとめています。
年齢に合った練習の考え方や声かけを、具体例で読みたい方には、こちらの本もあります。
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まとめ
ゴールデンエイジは「覚えやすい時期」であって、「最後のチャンス」ではありません。海外では、窓が閉じるという考え方より、どの年齢でも伸びる力を信じて、年齢に合った重点で育てる方向に変わってきています。どちらが正解と決めつけず、わが子の今の様子を見ながら選ぶ材料にしてもらえたらうれしいです。
よくある質問
Q. ゴールデンエイジを過ぎてからサッカーを始めても、うまくなれますか?
A. うまくなれます。海外の研究では、決まった時期を逃すと伸びないという主張には根拠がないとされています。始めた時期より、楽しく続けられるかどうかのほうが大切です。
Q. ゴールデンエイジは何歳から何歳までですか?
A. 一般には9〜12歳ごろ(U-10〜U-12)とされ、その前の5〜8歳ごろをプレ・ゴールデンエイジと呼びます。ただし体の成長には個人差があり、年齢はあくまで目安です。
Q. ゴールデンエイジの時期は、練習量を増やしたほうがいいですか?
A. 量を急に増やすより、いろいろな動きを遊びの中で経験するほうがすすめられています。痛みが続くなど体の不安があるときは、整形外科などの専門家に相談してください。
出典
- JFAキッズプログラム U-8/U-10(日本サッカー協会)
- Ford P, et al. The Long-Term Athlete Development model: Physiological evidence and application. Journal of Sports Sciences, 2011
- Youth Physical Development model の普及(Cardiff Metropolitan University / REF2021)
- Female Youth Physical Development Model(World Rugby Passport)
- Bethlehem RAI, et al. Brain charts for the human lifespan. Nature, 2022
- Draganski B, et al. Changes in grey matter induced by training. Nature, 2004