強豪クラブに行けば、うまくなる? ―― お金と時間をかける前に考えたいこと
執筆:オペラシンフォニー
月謝に遠征費、朝から晩までのカップ戦。それで、うちの子はうまくなっているのか。日本代表が通ってきた道や生まれ月のデータから、お金で買えるものと買えないもの、お金をかける前に考えたい三つの問いをまとめました。
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先日のカップ戦の話です。
会場までは片道1時間。集合の30分前には着いておきたいので、家を出るのはさらに早い。往復で2時間以上、朝から晩までの一日がかりです。
その日、うちの子が試合に出ていたのは、合わせて60分ほど。ボールに触っていた時間を足すと、たぶん3分くらいでした。シュートは、少しだけ。
帰りの車で、つい考えてしまいました。月謝を払って、交通費を払って、休日をまるごと使って。これ、ちゃんと役に立っているのかな、と。
同じことを思ったことのある方は、少なくないと思います。この記事では、「強いクラブに入れて、お金と時間をかければ、うまくなるのか」を、データと親の実感から考えてみます。
サッカーは、ボールを持っていない時間のスポーツ
最初に、当たり前のことを一つ。
サッカーは、試合のほとんどの時間、ボールを持っていません。11人でボールは一つ。上手な選手でも、ボールに触っている時間はごくわずかです。出場時間が60分あっても、触れるのは数分。これは、どのクラブに行っても変わりません。
だから、うまくなるかどうかは、ボールを持っていない時間に何をしているかで決まります。どこに立つか、何を見ているか、次に何をするかを、考えて動いているかどうか。
ここは、お金では買えません。強いクラブに入っても、ただ立っているだけなら、うまくはならない。逆に、近くのクラブでも、試合中ずっと考えて動いている子は伸びていきます。意識が高くないと上手くならないスポーツ、というのが、親として見てきた実感です。
お金で買えるもの、買えないもの
では、お金をかける意味はないのか。そんなことはありません。
お金で買えるのは、主に「環境」です。
- 強い相手と、本気の試合をする機会
- 整ったグラウンドと、指導者
- 高い目標を持った仲間
強度の高い試合を重ねることは、判断の速さや、狭い場所でのプレーを鍛えます。これは、強いクラブならではの価値です。
一方で、お金で買えないものもあります。
- 本人が考えて動く、その意識
- 成長期の体と、十分な睡眠
- 自分の時間で、好きなだけボールに触る時間
三つ目は、高いお金をかけなくても増やせます。家の前や公園で、ひとりで触る時間です。小さめのリフティングボールが一つあると、短い時間でも続けやすくなります。
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やっかいなのは、お金で環境を買うと、引きかえに、買えない側のものが削られることがある点です。遠征が増えれば、移動の時間が増え、寝る時間や、自分でボールを蹴る時間が減る。お金をかけるほど、時間と体も一緒に出ていきます。
クラブの費用が、家計全体でどれくらいの重さになるかは、ライフイベント表で家計全体を見るで確かめられます。
日本代表は、どこを通ってきたか
「上を目指すなら、強いクラブに入れないと」と考える方も多いと思います。そこで、実際にW杯の日本代表に選ばれた選手が、どこを通ってきたかを見てみます。
2022年のカタール大会の日本代表26人を、高校年代の所属で分けると、高校のサッカー部の出身と、Jクラブのユースの出身が、ほぼ半分ずつでした。2018年のロシア大会も、同じく半々です。
もう一つ目を引くのが、大学を経由した選手です。2018年は3人でしたが、2022年は9人。高校を出た時点ではプロの声がかからなくても、大学で伸びて代表まで届いた選手が、3倍に増えています。
中学年代を部活で過ごした選手もいますし、公立校だけを通って代表に入った選手も2人いました。
もちろん、Jクラブのアカデミーから代表に入る選手も、たくさんいます。強いクラブで鍛えられた道は、確かな道の一つです。ただ、それだけが道ではない。伸びる時期が遅くても、届く道がある。数字は、そう言っています。
「今の差」は、生まれ月でもつく
もう一つ、知っておきたいデータがあります。生まれ月の影響です。
Jリーグの選手を調べた研究では、4〜6月生まれの選手が、1〜3月生まれの約2倍いました。1993年は4〜6月生まれが36.5%、1〜3月生まれが16.7%。2018年でも33.1%と16.1%です。差は少しずつ小さくなっていますが、今も残っています。
同じ学年でも、4月生まれと3月生まれでは、ほぼ1年分の成長の差があります。子どものうちは、その差が「うまさ」や「速さ」に見えて、早く生まれた子が選ばれやすくなる。これを、相対年齢効果といいます。
つまり、小学生や中学生の今の差には、本人の力だけでなく、生まれ月や、成長の早さが混じっています。今の差を、お金で急いで埋めにいく必要があるのか。それとも、伸びる時期を待つのか。どちらを選ぶかで、お金のかけ方も変わってきます。
一つの競技に早く絞ることの是非は、別のコラムにまとめています。
お金をかける前の、三つの問い
強いクラブに行くのも、近くのクラブで続けるのも、どちらも正解になりえます。迷ったときに、私が自分に聞いている問いが三つあります。
- そのお金で、子どもが考えてボールに触る時間は増えるか
- 移動や遠征で、睡眠や休み、自分で蹴る時間を削っていないか
- その金額と時間を、家族が何年も続けられるか
一つ目は、クラブ選びだけで決まるものではありません。家でボールに触る時間を増やすなら、ボールやトレーニングシューズは、サイズと値段を比べて選ぶと無駄が出にくいです。
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一つ目が「はい」で、二つ目と三つ目に無理がなければ、お金をかける価値は大きいと思います。逆に、一つ目に自信が持てないまま、二つ目と三つ目が苦しくなっているなら、立ち止まって考えるタイミングかもしれません。
三つ目を考えるには、まず、わが家の年間の費用と移動時間を出してみるのが早道です。
週末の遠征が続いたあと、学校でのわが子の様子が気になった話は、教室のわが子は、どんな顔をしてるんだろうに書きました。
同じ練習時間でも差がつく理由は、「練習に行っている」と「練習している」は違うにまとめています。
私の考え:強いクラブも、近くのクラブも、どちらも一手
強いクラブには、強いクラブの光と影があります。強い相手と戦い続けられる一方で、費用と移動の時間がかかり、成長期の体に負担がかかることもある。近くのクラブにも、近くのクラブの光と影があります。体を育てる時間と、自分で蹴る時間が持てる一方で、強い相手との試合は少なく、本人の強い意志がないと、そのまま埋もれてしまうこともある。
どちらが正しい、とは言えません。大事なのは、何にいくらかかっていて、その代わりに何が減っているかを、家族が知っていることだと思います。知っていれば、子どもの前で「高いお金を払っているのに」と言わずに済みます。それだけでも、子どもにとっては大きな違いです。
私が書いている連載小説『背番号と請求書』は、まさにこの二つの道を、二人の選手に歩かせた物語です。どちらの道にも、それぞれの代償があります。
お金と体と食事と練習を、長い目で見る考え方は、育成の地図にまとめています。
まとめ
- サッカーは、ボールを持っていない時間のスポーツ。うまくなるかは、その時間の意識で決まり、そこはお金では買えない
- お金で買えるのは、強い相手との試合や指導者などの環境。ただし、時間と体も一緒に出ていく
- W杯の日本代表は、高校の部活とクラブユースがほぼ半々。大学を経由した選手も増えている
- 今の差には、生まれ月や成長の早さが混じっている
お金をかけるかどうかも、選べる一手のひとつです。かけるなら、何のためにかけるのかを、家族で言葉にしておく。それが、いちばんの備えだと思っています。
よくある質問
Q. 強豪クラブに入れたほうが、サッカーはうまくなりますか?
A. 強い相手と本気の試合をする機会は増えますが、それだけでうまくなるとは限りません。サッカーは試合の大半がボールを持っていない時間なので、その時間に考えて動けるかどうかが大きく影響します。移動や遠征で睡眠や自分で蹴る時間が減っていないかも、あわせて見てください。
Q. 中学の部活からでも、プロや日本代表を目指せますか?
A. 目指せます。2022年W杯の日本代表26人は、高校年代でみると高校のサッカー部の出身とJクラブのユースの出身がほぼ半分ずつで、大学を経由した選手も9人いました。中学年代を部活で過ごした選手もいます。
Q. 子どものサッカーにお金をかけるか迷ったら、何から考えればいいですか?
A. まず、わが家の年間の費用と移動時間を出してみるのがおすすめです。そのうえで、そのお金で子どもが考えてボールに触る時間が増えるか、睡眠や休みを削っていないか、家族が何年も続けられる額か、の三つを考えると整理しやすくなります。
出典
- W杯日本代表メンバーのルーツを比較(ABEMA TIMES、2022年11月10日)
- 日本代表の高校・ユース・大学 出身ランキング(サカノワ)
- Sasano N, Katsumata Y, Nakata H.「Relative Age Effects in Male Japanese Professional Athletes: a 25-Year Historical Analysis」Sports Medicine - Open(2020年)
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本記事の数字は記載時点(2026年10月)の各資料にもとづくものです。体や成長のことで気になることがあれば、医師や専門家にご相談ください。